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皮膚と心


私は、どんな病気でも、おそれませぬが、皮膚病だけは、とても、とても、いけないのです。
どのような苦労をしても、どのような貧乏をしても、皮膚病にだけは、なりたくないと思っていたものでございます。

私は、菊の花さえきらいなのです。
小さい花弁がうじゃうじゃして、まるで何かみたい。
樹木の幹の、でこぼこしているのを見ても、ぞっとして全身むず痒くなります。
筋子なぞを、平気でたべる人の気が知れない。
牡蠣の貝殻。かぼちゃの皮。砂利道。虫食った葉。とさか。胡麻。絞り染。蛸の脚。茶殻。蝦。蜂の巣。苺。蟻。蓮の実。蠅。うろこ。
みんな、きらい。ふり仮名も、きらい。小さい仮名は、虱みたい。グミの実、桑の実、どっちもきらい。
お月さまの拡大写真を見て、吐きそうになったことがあります。

(太宰治 皮膚と心より)